「おっ!!派手に山芋(自然薯)を掘り上げているな。腹いっぱい食べてこの近くで寝ているハズだ…」

イノシシの餌が乏しくなったこの時期に食べているのは、葛の根っこ(でん粉が蓄えられる)や山芋や早生のタケノコです。
見切りの時に、生足やヌタうちよりも信頼性が高いカセギ(餌を食べた痕跡)を見付け、それから足跡がどちらに向かったのか、そして山入りした時の様子でその山の中にイノシシの寝屋となるブッシュがあるのかを思い出し、どこにイノシシが寝ているのかを推測します。
「小さな山だけど藪は深くて実績は高い。だけど寒いから大きな山の安心できる場所まで移動して寝ている可能性も高いよなぁ。犬を入れてもイノシシがいる確率は五分五分だ…」
私の所属する猟隊は効率重視で、小さな山を丁寧に見切って巻狩りを行うことが多いのです。
大きな山を何時間もかけて競るよりも、きっちりと隙間なく弓(射手の待ち受ける包囲網)を張り、勢子役が交代しながら小さな山を短時間で競るほうが手返しも早く効率的だと感じます。
「50%の確率なら犬を入れてみよう。小さな山だから犬を入れても30分で終わるし、獲れたら儲けものだよ」
作戦会議の時にそういう結論になって、モリとカヤを山へ放ちます。
しかし山へ入るとシダなどの下草や生い茂り始めた孟宗竹の伐採が行われて、以前山入りして見た光景とは別物。

(少し拓けた場所で撮影)
しかしまあ、これが膝上くらいから腰下の高さくらいまで倒木や切った竹やアオキが倒れ、一歩進むにもハードル走か障害物競走をしているような有様で、歩きにくいことこの上なし!!
「寝屋自体が無くなっているし、こりゃダメだな…」
そんな事を思いますが、待場の近くにもわずかに孟宗竹の倒れ込んだ寝屋があって、そこから見切りで発見した50kgほどのイノシシと子イノシシが4~5頭出ました。
このイノシシには射手が撃ちかけたのですが失中(外すこと)。
中る中らないは時の運でどうしようもありませんが、障害物競走のような山の中を歩き、酷くくたびれました。
「ま、見切りの読みは当たっていたし、次に繋がるラウンドだったかな」
2ラウンド目は待ち役に回ります。
受け持つのは池の横にある実績のある場所。
他の待ち役から離れた場所でもあるし、もし猟犬が勢子役から遠い場所でイノシシを啼き止めた場合などは、私が走る必要があります。
周囲をしっかりと下見。
チーム全体の準備が整って猟犬が放たれます。
待ち役に付く時の鉄則として、「動かず喋らず気配を殺す」という事があげられます。
なにせそこを棲家とする野生動物に気付かれないように待機する必要がありますからね。
「犬の動きが変だ。早抜けしてるよ!」
勢子役からの連絡。
どうやら猟犬の動きに反応して、寝屋から抜け出して逃げ道を探している感じ。
ハンターや猟犬の気配に気付いた野生動物が逃げる場合、相当に慎重になっています。
こちらも緊張して待機。
「カサッ…」
小鳥などが動くたびに視線だけで異常がないかを確認。
すると私の待っている池の土手付近から何やら物音。
様子を見るとお爺さんが土手に立って体操をしています。

「ああ、天気がいいから近所のお爺さんが散歩にでも来られたんだな。すぐにいなくなるだろう」
そう思っていましたが、次に何やら音楽が流れ始め、お爺さんの唸り声が聞こえてきました。
「なんだなんだ!?何が始まったんだ!?」
かなり驚きますが、どうやら「詩吟」という物のようです。
しばらく我慢していましたが、お爺さんの唸り声は止むことなく続きます。
「いやいや、もう獲物が出ているんだ。集中!」
しかし一番のサビになったのか、ラジカセから流れる音楽は割れるほどに大きくなり、お爺さんの唸り声は絶叫と言っていいくらいの大声量に。
「ダメだ。これだけ大きな物音をさせていたら獲物が来るわけない」
ハンターになって間もない頃、単独猟の方が逃げてほしくない場所に大音量のラジオを設置していたことを思い出し、少し移動して待ちます。
山の中は勢子役が苦労している感じ。
イノシシが複数頭出たようですが、上手く猟犬もハンターも躱して逃げている状況。
しかし勢子役と猟犬たちの執念が勝り、均衡が崩れはじめます。
素抜け(猟犬を躱してコソコソ逃げる状態)していた一頭のイノシシが待ちにかかって仕留められます。

更に猟犬がイノシシを発見しての追い啼き。
ギャンギャンギャンっ!!何頭もの猟犬の啼き声が山に木霊します。
近付いてくる猟犬の啼き声。
バキバキとイノシシが枯れ竹を踏み割る重量感たっぷりの音。
「デカいぞ。来る…」
猟銃を構え、安全装置を解除。
しかし私の待ち受ける通し(けもの道)には現れず…。
そして向かった先はお爺さんが唸っていた場所!
「しまった。最初の場所で待っていたらまともに撃てたはず。大失敗だ!」
そんなことは滅多にないけれど、イノシシがお爺さんに向かって行ったりしてもいけないので、急いで元の場所に戻ります。
お爺さんは詩を吟じ終わり、ラジカセを持って立ち去るところでした。
私は急いで山へ入りましたが、結局このイノシシには逃げられました。
倒したイノシシは80kgちょうどのよく脂が乗った個体。

「だあぁ~、今日は本当に大失敗だったなぁ。オレの心の弱さと判断力が足りなかったせいだ…」

(山の神様祭りで背ロースの焼肉を堪能の図♪)
自然を相手にする時は、良いことも悪いことも起こります。
しかしながら今回は大きな獲物にも恵まれたし、人間にも猟犬にもケガもなく無事に終猟したし、良い方向に考えないといけませんね。
次は頑張りま~す!!
今日も自然の恵みに感謝です。
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川沿いのサイクリングロードでも、時々
詩吟の方おられます。
「鞭声~粛々~、夜~河~過~る~~」
あれはストレス解消にはいいだろうなぁ、とは思いますが…。タイミングが…。
猟期後半を迎えて獲物達の動きもよりセンシティブかつトリッキーになってきてますね。魚釣りと同じで、シーズンが進むに従って獲物の動き方が変わっていくのが興味深いです。
参加した日の振り返り記事があると、とても良い勉強になります。また参加させてください。感謝!
自分が失敗しただけに、なんとか獲物を授かってホッとしています。
あまり詩吟という物に接する機会が無かったので、今回は本当に驚きました。
でもあれだけ大声を出したら気持ちいいだろうな、と思ったのも事実です♪
コロナ禍でカラオケも出来ませんしね。
お疲れ様でした。
この時期はだいぶん追われてヒネていますね。
毎年毎回が知恵比べです。
しかし、苦戦するからこそ面白いのだと思います♪