少し前の事になります。
この頃、私は悩んでいました。
それは庭に放し飼いにしている鶏のブラウンさん達が脱走するからです。
最初は、上下2段重ねにしている防獣ネットの隙間から逃げたのかと思い、きっちりと隙間なく結束バンドで締め込みました。

しかし脱走は続き、「飛んで逃げたのか」と防獣ネットを3段に高くしてもダメ。
地面とネットの隙間はピン止めしていましたが、所々隙間が出来ていたのでピンを追加して土盛り+ブロック設置。
それでもダメ。
庭木の枝が茂っていたので、ネットを掴んでそこから外部に出ているのかと短く選定しましたが、これもダメ。
帰宅するたびに敷地外に出ているブラウンさん達を抱えて連れ戻し、ヘッドライトを照らしながら脱走経路を探しますがはっきりせず。
「毎日の事だから必ずどこかに逃走経路があるはず。こんなことでは本当にハンター失格だな…。」
(後日、網自体が使用限界で大きく破れていることが判明)
そんなある日に事件は起こりました。
4羽いるブラウンさん達の内、3羽しか回収できなかったので隣の田んぼ(他人の物)を捜索。
稲刈りが終わったばかりで、落ち穂を目当てに侵入していたことが度々あったからです。
「いない…」
ハッと思ってワンコゾーンを探しますが、羽毛も散らばっていないし特に異常なし。
「猛禽類か野良猫に連れ去られたんだろうな」
捜索しても見つからず、諦めかけた時にふとアイデアが浮かびました。
鶏を保護対象として見ているふじを探索に使うことです。
ふじは何度も小さなヒヨコと共に過ごしてきていましたし、カラスがヒヨコを狙っている時もすごい迫力でいつも追い返していたのです。
(モリとカヤはダメでした。2頭で競い合ってニワトリを獲物としか見ていません)
ロングリードを付けてふじを田んぼに連れて行くと、すぐに草叢に鼻を突っ込み「キュンキュン」と鳴き始めます。
草叢の中を見ると見慣れたニワトリ。
抱えるとすぐに負傷していることが判明。
片方の翼を失っていました。

「猛禽類に襲われた傷じゃないな。野良猫にやられたんだ」
抱きかかえて帰宅。
急いで鶏小屋の産屋にワラを敷きつめて入れ、水とエサを少し強引に口に運び、他のニワトリと隔離して寝かせました。
(ニワトリは赤い部分や負傷した傷を突く性質があるため)
「エサを食べたけれど傷が深い。明日の朝には冷たくなっているだろう…」
そんな事を思って鶏小屋を後にします。
そしてワンコ達にご飯を与えるために犬部屋に入ると、傷を負わせた犯人が分かりました。
イトの側にニワトリの風切り羽が何枚も落ちていたのです。

(我が家に来たばかりの頃)
ワンコスペースと田んぼはワイヤーメッシュで区切られていますが、メッシュのすぐ向こうは田んぼ。
脱走して田んぼに出たブラウンさんの一羽が、ワイヤーメッシュ横の青草を啄んでいる時にイトが片羽根を咥えたのでしょう。
「ま、猟犬だし本能だからしょうがないよね」
実際に鳥猟に行くと「羽折れ」と言って羽根の骨が折れて仕留めることはよくあるし、鳥の血なんてハンターである私には日常的によく見る光景でした。
それに猟犬として成長段階にあるイトを「動くものを獲っちゃダメ」と叱り過ぎると、本能として持っている猟欲をスポイルすることにもなるので、それはそれで叱り方が難しいところでした。
飼っている猟犬候補の子犬が自分ちのニワトリにちょっかいを出して、ニワトリが傷を負ってしまいました。
という、猟犬を飼っているハンターにとっては「よくある話」でした。
と、ここまでは良いのですが、これから先の話に異変が。
妻(一応います)が「胃が痛い…。吐き気がする」と言って長いことトイレに籠ってしまったのです。
幸い吐くことはなかったのですが、出てきた彼女の顔色は蒼白で泣いていました。
「うっうっ、もう無理。限界…」その言葉を聞いて愕然としました。
妻は何度か狩猟の現場にも付いてきて、我が家の猟犬の活躍や獲物の解体の様子を間近で見ていたので、「狩猟に理解がある」と単純に思っていました。
しかしそれは私の傲慢な思い込みに過ぎず、彼女なりに私の夢中になっている狩猟という未知の世界を頑張って理解してくれようとした結果に他なりません。
その無理が今回の件によって表面化したのでしょう。
私にとって猟犬は山へ行く大切なパートナーですが、ニワトリ達は卵を産んでくれる草抜き要員に過ぎません。
なので「イトは子犬だししょうがないね。ニワトリはせっかく卵を順調に産んでくれていたのに残念だ」くらいにしか思いませんでした。
しかしながら彼女にとっては犬もニワトリも可愛がり庇護する対象であり、互いが傷付けあうなどと言うことが想定外の出来事だったのでしょう。
それにケガや血に関しても無防備でしたしね。
「今食べているお肉のルーツを知らないなんて言うことの方が問題だ。だから平気で食品を廃棄するし、命を無駄にすることの方が残酷だ!」
常々そう思っていましたし、私にとって今でもその考えは変わりません。
だけど「食べ物を獲ってくる」などという事の方が現代社会においては野蛮な行為であり、一般の方からみると「全く理解できない」ことであることは間違いありません。
ブログの記事を書く上で私なりに各方面に対して気を使っているつもりでしたが、肝心な最も身近な人間が涙を流して悲しんでいるのを見ると、自分の配慮の足りなさを恥じました。
もう本当に「狩猟をやめてしまおう」と思ったくらいです(実話)。
傷付いたニワトリには出来る限りのことをしてやることにして、ワンコ用の抗生物質を体重の分量計り、練りエサに混ぜて与えました。
その後はエサも水も摂り続け、そしてとても驚いたのですが、そのニワトリはケガをしても3日間卵を産み続けました。
傷跡は痛々しく感染症の惧れもあるので「力尽きる前の最後の灯だろうな」と思っていました。
4日目以降は卵を産まなくなったのですが、しかしとても元気。
「ダメだろうな。明日にでも小屋の中で冷たくなっているだろう」
と毎日思っていたのですが、傷口も見る見るうちに治り元気に庭を歩き回っています。

(一番右がケガをしたニワトリ。左羽根が無いのが分かりますか?)
「まあ、生きてくれているだけで充分だ」
そんな事を思っていたある日、驚くことが起こりました。
鶏小屋の中の産屋には毎日卵の回収に行くのですが、そこには4個の卵が…。
(若くて元気な雌鶏は毎日一つ産卵する)

(最近の写真。羽毛も生えて来て見た目ではケガが分かりません)
「良かった。本当に良かった…」
心の底から本当にそう思いました。
それからは毎日卵を産んでくれています。
私のハンターとしての狩猟採集生活は変わることはないでしょうが、狩猟をされない方からハンターへ対しての見方に関しては、自覚としてかなり変わりました。
それにしても本当に良かった。
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