大物猟の巻狩りでは、獲物に気付かれないように、また誤射などの危険性があるので待ち(射手)は動かないのが鉄則。
しかしこの日は待ち(射手)の人数が少なく、私は状況に応じて走り回る遊撃手的なポジションを取ることをメンバーの方に伝えます。
山に入り、勢子役の時に見た寝屋から続く通し(けもの道)を思い出し、イノシシ狙いで山裾近くに待場を構えて待機。
一概には言えませんが、どちらかと言うと身が隠せる暗い場所を繋いで逃走するイノシシは、藪が透けた山頂近くよりも深い茂みのある場所を好んで逃げるのです。
(逆に鹿は背が高くオスには角もあるので、走りやすい明るく透けた場所を好んで逃走する傾向にある)
勢子役が猟犬を放ち巻き狩りのスタート!
犬を放してものの数分で獲物を発見しての起こし啼き!!
ヴァンッ!ヴァンッ!ヴァンッ!「啼いたっ!獲物出たよ!!テンカチ(山頂。天辺)近くを追ってる」
勢子役からの連絡。
「ダメだ。この場所には来ない・・・」
山頂近くを走る様子と猟犬を放してすぐに啼いた様子から鹿が早立ちしたと判断し、現在の待場に見切りをつけ、急いで山の斜面を駆け上がります。
駆け上がると言っても獲物に気付かれては何もならないので、地下足袋の爪先に力を込めなるべく物音を立てないように静かに静かに・・・。
「この尾根の向こうに谷があるはずだからそこで待ち構えちゃる。結構なスピードで獲物も猟犬も走っているはずだから果たして間に合うか!?」
山頂近くの空が見え始め、向こう側に広がる谷で待ち受けるために尾根道を目指して一歩踏み出した時・・・。
ギョッ!!10メートルほどの距離に5頭の鹿。
互いに鉢合わせになったので鹿も明らかにギョッとした表情。
こちらもギョッとしたけれど、瞬時に挙銃(きょじゅう。銃を構えること)。安全装置解除。照準・・・。
挙銃と同時に確認。
「小鹿、小鹿、小鹿、小鹿、中鹿・・・。
勢子役や猟犬の姿は・・・、無し。
他の待ち(射手)の姿は・・・、無し。
バックストップOK。」
ドカドカッ!ほとんどが小さな子鹿ばかりでしたが、1頭だけ混じっていた中鹿を狙って発射。
(こんな時に目移りしない自分の欲深さに呆れます)
2発撃つと鹿達は藪の中や尾根道の向こう側へと弾け飛ぶようにチリヂリに逃げます。
「なぜこの距離で中らん・・・?」
実は至近距離を走る獲物は結構な確率で外します。と言うよりほとんど中りません。
まず銃をしっかりと構えることが出来ていないので、「顎が上がる」状態になって視線と銃口が別々の方向を向いています。
それと射撃場などでは至近距離で動く的を撃つような訓練は出来ないので、そんな短い距離で動的射撃を狙うことに身体が反応出来ずに銃のスウィングが追い付かないのです。
「ああああぁぁ、また外しちゃったよ・・・。逃げた獲物に先回りしたところまでは良かったんだけどなぁ。それにしてもこの銃ホントに弾が出てんのか!?」
まだ獲物が出ていたので悪態をつきながら再び待機。
その後も山中に何発か鳴り響く銃声。
一段落付き、獲物の逃走経路を確認。
「ここで撃ったから足跡が乱れているな。次に着地した場所は・・・」
3メートル以上離れた場所に撃ちかけた鹿の着地点。
そしてその次の一歩を探そうとしていた時に一滴の血痕を発見。
「中ってる。傷の深さは・・・」
撃ちかけた鹿が逃げた方向を探すと、血泡の混じった多量の血痕が吹き付けられています。

「肺に中ってる。致命傷だ・・・」
肺に弾があたった場合、破壊した肺の空気と共に血液が噴き出すので血泡になるのです。
すぐに追跡開始。
しかし落ちている血痕は明らかに大きくなっているのに、一跳び2~3メートルの距離を保ったまま相当な距離を走っています。
「もうそろそろ絶命しているはず」と思いつつも歩幅の大きさは変わらず、二度血痕を見失って逆戻りします。
そして70メートル以上追跡した斜面の途中で息絶えた鹿を発見。

40kgのメス鹿。
やはり弾は肺に命中。
傷の深さと出血量、逃げた距離を考えると感嘆せずにはいられません。
「美味しく食べてやるからな」
獲物を山から引き出しながら心の中で合掌。
今日も自然の恵みに感謝です。
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