「今日は自分の好きな場所に行くといい」
私の所属するグループが攻める山の中では比較的大きな山を競ることが決まった、巻狩りを始める前の作戦会議で親方からそう伝えられました。
猟犬を使役して獲物を追い出す勢子役と、それを待ち伏せて撃ち止める狙撃手(待ち、タツマ、シガキなどと呼ばれる)から成り立つ巻狩りでは、獲物の休んでいる居場所を突き止める事(見切り)と、それぞれの勢子役・猟犬や狙撃手の個性や技量に合わせた配置をして包囲網を張り巡らせ、如何に獲物を撃ち取るかの作戦面で猟果は大きく違ってきます。
大きな山を10人ほどのメンバーで攻めるのですから、一人一人の役割はそれぞれに重要です。
そんな状況で自分の待ち場所を「自分で決めなさい」と言われた訳ですから、他のメンバーの配置を聞いて自分なりに考えます。
手薄な場所の「中シガキ」を選択。
勢子役と最終防衛線の中間地点に位置し、状況に合わせて動き回る遊撃手的なポジションです。
稜線で待機する親方と一緒に山を登り、途中途中の通し(獣道)を見て一番活発に獲物の動きがある場所に身を潜めます。
待ち場に選んだ場所はこんな感じ。

谷底の暗い場所に2本の通しが交わり、更に別の通しも狙えます。

「うん。こちらの斜面はほぼ自分一人で受け持つ事になるけれど、ここだったら獲物が来るに違いない」
皆が配置に付いたことを伝え、勢子役が別々の3方向から犬を放ちます。
私の所属する猟隊では3人の勢子役が別方向から猟犬を放つことによって、獲物に考えたり狙撃手の配置を気取られる時間を与えることなく半ばパニックの様な状態で追い出すので、撃ち取る確率も上がるのです。
数発の銃声が鳴り響いた後、左側の斜面上方から僅かな物音。

「来たぞ…。そっちはまともな通しなんて無かった。左の斜面からオレの正面に降りてくるはず…」
物音の方向に銃を構え狙いを定めますが、予想した進路と違い獲物は真っ直ぐに斜面を駆け下ります。
「こんな明るい斜面を駆け下ってくるのは鹿に間違いない」
そう思いながら銃の照準越しに確認した獲物は大きなイノシシ!
「え!?ウソだろ? だけど現実に大きなイノシシが駆け下ってくる。
距離30メートル。少し遠いけれど的が大きいから絶対に中る…」
そう思いながら狙いを定めますが、イノシシの後ろは空。

安全が確保出来ずに撃てず。
「少しでもバックストップ(弾が外れたり貫通した場合に弾を止める斜面など。安土)が確保できたら即座に撃つ!」
猛スピードで近付くイノシシ。
バキバキという枝を折り割る音と巨体から発せられる地響き。
「ゼッ!ゼッ!ゼッ!」という荒い息遣い。
銃の照準をイノシシに合わせたままイノシシの姿を追いますが、遂に発射する機会は得られず見えない場所に逃げ込まれました。
「80kg~90kg以上の大きなイノシシが向かったよ!」
すぐに連絡を入れます。
「犬は付いてなかったけれど、明らかに普通じゃなかった。猟犬と一戦交えて来たのか?
だけどあの息の上り方じゃ、そう長くは走れまい。
もう山の高い場所に登れる体力は残っていないだろうし、逃げた方向からは勢子副長が競り下って来ている。
苦し紛れに隣山に移ろうとすれば狙撃手が待ち構えている。必ず誰かの待ち場にかかるはず。
後は頼みます…」
そして2発の銃声。
倒したのは大物猟ルーキーイヤーの伊集院くん(仮名)。

倒したイノシシは110kg!!
彼の待ち場に出て来た時にはゼーゼーと肩で息をしてたそうです。
それでもこの巨体を前にして冷静な射撃はスゴイ♪

だけどこのイノシシの牙に猟犬の一頭が切られました。
自分の4倍以上も体重があるような大きなイノシシに立ち向かってくれたのです。
腹膜を割かれ腸が出るほどの重傷でしたが、手術にも成功し(今の所)命に別状はないとのこと。
良かった…。ホッ。
久しぶりに100kgを超える大物が獲れたのですが、犬がやられ後味の悪いものとなりました。
しかし最悪な状況にはならず済んだので、その点だけは良かったと思います。
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