「立てる」という狩猟用語があります。
イノシシや鹿などの獲物を、猟犬が鳴き止めたり噛み止めたりすることで同じ場所に留めておく事です。
そのような状態の獲物を仕留めることを「立て撃ち」と言います。
今回はそんなお話です。
猟期も終盤になり、いつものように獲物の痕跡を見つけることが難しくなります。
「いないいない」と言いつつも獲物の痕跡を見つけ出すのがベテランハンターさんの凄い所。
私の様な初心者から見ると、持っている引き出しがとても多いのだということがよくわかります。
しかし今回獲物が潜んでいると判断した場所は、いつも攻める場所の隣山なのですが初めての場所。
足跡や餌を食べた跡から、勢子が犬を入れる方向と狙撃手(待ち)の配置を決めます。
ここはベテランハンターさんの経験が頼り。
大きな山から張り出した小山を堰切るようにズラリと本命の待ちを潜ませます。
私の待受け方向はそれとは反対の場所で、私ともう一人の射手が隣の山に渡ろうとするイノシシを仕留める作戦です。
今日の待ちはこんな感じ。

山から伸び、小川を渡る2つの獣道を待ち受けます。
川の土手を上がると田んぼで、その向こうはいつも攻める山。
射手が待ちに付き勢子が3方向から猟犬を離すと、狙い通りあちらこちらから獲物を出します。
小川の流れる音で獲物の気配が分り辛いけれど、僅かな気配も見逃さないように獣道を凝視…。
近くで3発の銃声。
私の上側に付いている射手から「外れた!抜けられた」の声。
「あそこを抜けられたら、いつも攻める山の麓の獣道に繋がっているはず…。間に合うか!?」
川の土手を上がり、田んぼを横切って向かいの山にダッシュ!
息を切らしながら山に入ると、山の上から猟犬の鳴き声。
「間に合った。ここに来るハズ…」
狙い通り20メートル上の獣道を、よく太った40kg程のイノシシが走ってきます。
「あ、美味そう♪」
ドカンドカンと2発発射!!
しかし瞬時に浮かんだ邪念のためかカスリもせずに逃走(笑)。
逃げた方向と待ち場を外して追跡することをメンバーに伝えます。
時々犬の吠え立てる声がするので、猟犬が頑張って追跡しています。
山の中を走って走って追いかけるけれど、ゼイゼイと息は上がり、何度も倒木や蔓に足を取られて転びそうになります。
それでもなんとか犬の鳴き声の方向に急ぐと、5メートル程上の崖の上にさっきのイノシシと3匹の猟犬を発見!
猟犬に追い詰められ、更に人間の出現にも驚いたのか、枯れ竹に足を突っ込んで動けなくなるイノシシ。
それを見て猟犬が襲いかかります。
ところが急斜面の上から襲い掛かったため、勢い余って3匹とも崖下に転がり落ちてきます。
「今しかない!」動きの止まったイノシシに狙いを合わせ、引き金を引く。
崩れ落ちるイノシシ。
「止めたよ~」とメンバーに連絡。


緊張感から開放されて安堵。
滝のように滴り落ちる汗。
「おう、やったな!」
振り返るとこの猟犬の飼い主の勢子。
「あれ?なんでこんな所に?」
と思ったけれど、車で先回りしていたそうで、私のわずか3メートル後ろにいたそうな。
「3回大きな声でお前さんの名前を呼んだけれど気付かなかった」
獲物に集中していたのと犬の鳴き声が大きかったので分からなかったのですが、撃つ時に3メートル後の人間に気付かなかったのは反省点…。
42kgのオス。

猟犬が近くにいるので常に誤射の危険の伴う立て撃ちですが、なんとか無事に仕留めることができて良かった。
それにしてもよく走った。
今夜はぐっすり眠れそうです♪
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