私の所属している大物猟のグループでは雨の日に巻狩りは行いません。
山の中が濡れて勢子は下着までびしょ濡れになるし、待っている射撃手も同じようなものだからです。
一昔前は「待っていると銃身から雨樋のように雨水が流れ落ちた」という様な状態でも巻狩りを行っていた気合の入った猟隊も多かったようですけど・・・(笑)。
さて、この日の天気予報は曇り。
朝、準備をしていても降っていなかったので問題なく猟が出来ると思い、猟場へ向けて出発すると途中で土砂降りになります。
「こりゃ~ダメだな」
ワイパーを回しながらそんな事を思いつつ一応猟場へ向かいます。
車載無線でメンバーの方々と連絡を取り、何人かはそのまま帰宅の途に就きますが、前親方の括り罠に鹿が掛かっていたので私は解体をお手伝い。

そうこうしていると雨も上がり青空が広がります。
「これだったら出来るぞ!じゃんよ、せっかく犬を連れてきているから散歩程度に競ってくれ!」
「マジっすかー!?」
と思いつつも猟期もあと僅かだし、ふじも猟犬として伸び盛りなのでもっと山を引きたかったところなのでドンと来い!です。
ということで山入り(笑)。
ちなみにこの日は勢子は私一人。
再び山へ到着し、山へ入る準備をします。
泥に足を取られることを想定し、特に足回りは入念に支度を行います。
まぁ支度と言っても、足袋のマジックテープををキツメに締め、足袋とズボンの裾をいつにも増してガムテープでグルグル巻きにするくらいなものですが(笑)。
私も猟期終盤になって体も慣れ、急斜面でも無理なく登れるようになっていたのですが、さすがにこの日はスパイク付きの足袋を履いても、酷く滑って体力を消耗します。

おまけに当然ながらまだ山の中は乾いていなくて、竹や細い木の幹を少しでも掴むと頭上からジャバジャバと落ちてくる水滴。
とりあえず歩きやすい尾根道まで登り、時々連絡のために戻ってくるふじと待ち(狙撃手の待つ包囲網)に向かって競り進みます。
するとスッと山裾に向かって走り降りて行くふじ。
ヴォッ、ヴォン、ヴォンッ!「出したよっ!」
ふじは少し追い啼きを上げて走りますが、ほどなくしたら同じ場所で吠え続けています。
「立てたな(啼き止めたな)!」
急斜面が続く場所や泥地やガレ石の山、藪が茂った場所等ではスタミナ切れや逃げにくさからイノシシが足を止め、犬と交戦状態になります。
イノシシの攻撃をかわしつつ、啼いたり噛んだりの方法でその場に釘付けにしておくのがシシ猟犬の役割の一つであり、(人によって判断基準は異なりますが)この技術に長けた犬が名犬と呼ばれます。
もちろん我が家のふじは経験も浅く、本当のイノシシの怖さを知らないので、勢子である私が一刻も早く忍び寄って撃ち取らないと、イノシシの牙によってケガをする可能性大です。
急いでふじの啼き声のする方向の急斜面を下りますが、足裏のグリップを失いズルズルと滑落。
滑る土で勢いが増し、枯れ竹を折り、岩に体を打ちつけながら斜面を落ち続けます。
持っているものが実包の入った猟銃なだけに、片手で銃だけは庇いながら、残った片手と両足でなんとか木の枝や蔓草を掴んでようやく停止。
「まだふじが頑張って啼き止めている。急いで行ってやらないと」
薬室に弾を装填しふじの吠え声の方向に忍び寄りますが、近付くと共に啼き声が遠ざかります。
「ちくしょう、失敗した。滑落してバキバキと音を立ててしまって逃げられた・・・」
その後、待ち(狙撃手)の手薄な場所を3頭のイノシシが逃げて行ったとのこと。
「ああ、ふじが頑張ってくれたのにオレが未熟なばっかりに・・・」
天を仰ぎ泥だらけになった衣服の泥や木の枝を払います。
それから薬室に装填した弾を脱砲しようと装填レバーをスライドさせて薬室を開放しますが、何故か弾が出てきません。
確かに薬室に弾は見えているのに・・・。
銃身を振ったり、銃床をトントンと叩いてみますが出てくる気配なし。
「泥が入って噛み込んだな」
先程の滑落の時に、気をつけていたとはいえ猟銃の機関部に泥が入ってしまい、銃弾を装填した時に弾と銃身の内側に入った泥が接着剤の様になってしまったのです。
「これだけ足元が悪いと薬室に実包を込めたまま行動するのは恐ろしいし、仮に銃身に泥が詰まっていたりしたら撃った時に暴発してしまう・・・」
どうしようかと迷いましたが、安全第一と考え山の中で銃を分解する羽目に。

オレンジベストを脱いで地面に敷き、部品の紛失に気を付けながら分解清掃。
幸いすぐに弾は脱け、無事に泥や木の枝を取り除いて組み上げることが出来ました。
その後、もう一頭小イノシシが走り去りましたが逃げられてこの日は終猟。
「ウキュ~、せっかく私が頑張ってイノシシを止めていたのに・・・」
と不満そうなふじ。

うう、せっかくのふじの頑張りに応えることが出来ずにごめんよ(涙)。
狩猟の魅力まるわかりフォーラムHP↑会場でパネル展示していただいています。
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