「イノシシが藪の中に竦んでいる(身を小さくして屈んでいる)と目を凝らして見ても見えない」
他の勢子の方から何度も教えていただいたことでした。
「そうやって身を隠していきなり猟犬やハンターに反撃したり、逃げるための準備をしているんだ」
事実、今猟期も何頭もの猟犬がその鋭い牙で切られてケガを負っています。
そんな言葉を思い出したある日の猟行です。
「山歩き」と一言で言っても、大物猟の勢子役の山歩きがこんなに困難なものとは分かりませんでした。

道は人が歩けば崩れ落ちるような獣道だけだし、寝屋になる場所は倒木や蔦でジャングルジムのようになった場所ばかり・・・。
普通の人では入っただけでも泣き言が出そうな険しい場所です。
今回の勢子役は勢子長と若き勢子、それに私。
勢子長と私は同じ方向から、若き勢子は別方面から山に入り猟犬を放ちます。
山に入るとドカドカと生々しい足跡が付いてイノシシの気配濃厚・・・。
すぐにスピードのある勢子長の猟犬がイノシシを発見し起こし鳴き!
子イノシシばかりが仕留められますが、親イノシシはシガキ(射撃手が張った包囲網)の直前でUターンし逃走。

勢子長の猟犬も親イノシシに付いて隣山まで追跡したので、勢子長は自分の猟犬を探しに山を降り車で犬探し。
「こちらはイノシシのカセギ(餌を食べた跡)や生足がすごい。まだ幾らも競っていないからお前さんが競ってくれ」
勢子長からの連絡を受け、私が勢子長担当の位置に移動。
若き勢子は自分の担当場所を早めに競り終わり、勢子長の猟犬探しに走ります。
包囲網は乱れ、勢子役や猟犬が入り乱れての乱打戦の様相を呈します。
3人いた勢子役の2人が山を降り、残った勢子は私一人。
この日はグループの親方は用事がありお休みだったので、ゲームメイク役は必然的に残った私になってしまいます。
「うう、この山の中の様子じゃイノシシの影が濃い。だけど初心者勢子と初心者猟犬一頭だけでどうしよう・・・」
不安にならざるをえませんがやるしかありません。
勢子長が競っていた場所へ移動すると、確かに孟宗竹林のタケノコを食べた痕跡が広がり、無数の足跡が見て取れます。
「50kg~60kgのメスイノシシと数頭の子イノシシ。そしてそのメスを追いかけているであろう100kg級の大きなオスイノシシ・・・。」
獣道の足跡を拾いながら進むと
「ウォッ!ウォッ!」というふじの吠え鳴き。
「ふじがイノシシを出したな!」
すぐにその事を待ち(包囲網を張っている狙撃手)に伝え現場に急ぎます。
倒木を潜り斜面を登って近付くと、ふじの鳴き声は移動せず同じ場所に留まったまま。
「イノシシを立てて(鳴き止めして)いる・・・」
音がしないように薬室に弾を装填。
足音を忍ばせ静かに寄ると藪に向かって吠えるふじの姿。
「犬がイノシシを立てている時は吠えている方向に必ずイノシシがいる。犬の鼻を信じろ!」
かつて勢子役の皆と話した事を思い出し、ふじの吠える方向にジッと目を凝らします。
しかし倒れた竹と青木の藪が邪魔をしてイノシシの姿が確認できません。
「いきなり捲って(突進して)くるかもしれない・・・」
そう思うと流れ落ちる汗が冷たいものに変わります。
「姿が確認できたら迷わず撃つ!」
銃を構えたまま少しずつ場所を移動してみますが、トンネル状になった藪の中に身を潜めているであろうイノシシの姿が発見できません。
「
パキッ・・・。
バキバキバキッ!!」ふじが吠え立て私が銃を構えていた方向3メートル先の藪の中からいきなりの大きな音。
一瞬だけチラリと黒い影が見えますが、ハッキリとは姿が確認できずそのまま逃走。
待ちにも掛からず結局そのイノシシには逃げられてしまいました。
最終的に仕留めたイノシシは4頭。

「本当になぁ、わずか3メートル先のイノシシが見えないなんてなぁ・・・。トホホ」
頑張ってイノシシを止めてくれたふじに申し訳なく思いながら山を降りたのでした。
完敗・・・。
只々野生動物の賢さに脱帽です。
狩猟の魅力まるわかりフォーラム facebookサイト狩猟の魅力まるわかりフォーラムHP鳥獣対策総合案内コーナー(鳥獣対策、狩猟へのご案内など)↓未熟者め!!と思った方はクリックプリーズ(涙)
にほんブログ村
にほんブログ村